岐阜提灯(火袋部門)絵付
伝統工芸士/加藤淳一
絵付は、あらかじめ摺り込んだ絵紙を張る摺込絵とは異なり、張師が無地で張り上げた火袋に、下描きをせず直接描いていく、古くから継承された技法です。ヒゴのある凸凹した曲面に活きた線を走らせること、絵柄の位置、色、大きさを100張、200張、500張と数多い製品を同じように揃えることが必要となります。平面とは違い、曲面である火袋に同じ色合いで、同じ絵柄を素早く描くことは、絵師の描写力、画力と共に熟練を必要とし、大変手間のかかる工程です。
作業は、無地の火袋を10張程度並べ、花や茎、葉の色ごとに同時に描いていきます。見本となる火袋と同じ色合い、同じ配置で描くため、まず絵の具を見本に合わせて正確に調合したあと、張輪からヒゴ目の数で上下の位置を決め、火袋の断ち目からの寸法で左右の位置を決めて配置を把握します。そして中心となる花を最初に描き、色彩を重ねる順序や、花や葉の前後の関係、絵の具の乾き具合を見極め手順を決めていきます。
昭和初期の絵付作業風景
筆は彩色筆、平筆、面相筆、片羽など日本画用の筆を使いますが、用途に応じて絵師が加工し、花や、提灯の曲面に合わせる必要もあります。絵の具は、顔料を少量のニカワで溶き、水で濃淡を調節して使用します。絵の具の濃淡は、提灯に灯を入れたとき、光の透過に強弱を生み、絵柄を幽玄に浮かび上がらせる効果があります。絵付の工程は本来の日本画とほとんど変わりありません。しかし、灯を入れたとき、濃度の濃い絵の具のみで描くと絵は黒く沈み、薄く描けば絵の輪郭を全てぼかしてしまいます。絵付における絵の具の濃淡の加減は、岐阜提灯の美しさを左右する大変重要な工程となるのです。
また描く際、絵の具の乾かないうちに、水をつけた筆でぼかしていく「ぼかし」、絵の具が乾かないうちに別の色を入れ、にじませる「たらし込み」、絵の具のついた筆先に別の色をつけ、火袋上でにじませる「引っかけ」等の色のグラデーションを作る様々な伝統的日本画技法を、描く花、茎、葉によって使い分けることで、絵柄に奥行きや立体感が表現されていきます。全ての花を描き終えると、最後に薄や葉脈を入れて完成となります。